刹那が「おやすみ」と言って明かりを消した。
部屋が暗くなって、刹那がベッドにもぐりこむ気配がして、 さて、 おかしい。 これはゆゆしき事態である。 何をそんなに深刻になることがあろうか、と問われるかもしれないが当人にとっては 大問題である。 なにを隠そうグラハムの計画では刹那が後ろから抱き締めてくれることになっていた のである。 そのためにわざわざ反対を向いて寝て待っていたというのに! それなのに! にっちもさっちも予定の両腕が抱きついてこないのである。 (ああもう…!) 状況が許すならばふかふかの布団の端をぎりりと噛んでいるところである。 いい加減辛抱耐えかねたグラハムが体は動かさないように視線だけ向ければ 猫のように丸くなった背中がちらりと視界に入った。 (ガンダム…!!) …何か間違っている自覚はあったが、これ以上に今の気持ちを表現する言葉は思いつ かない。 内心ガックリと肩を落としながら視線を正面に戻す。 フローリングに白い壁。あとは自分の私物がいくつか床に散らばっている。 必要最低限のものすらない室内。闇と静寂に沈んだ刹那の部屋はいつも以上に寂しく 広く見えた。 こんなことならあちらを向いて眠ればよかった。 寝顔を見つめられたらこんな気持ちにはならなかっただろうに。とらしくもない後悔 まで湧いて出る。 自分からあの背中に抱きついて寝てもいいのだが、きっと暴れるだろうなぁとぼんや りと思う。 長くはない二人の付き合いだが刹那の行動くらいわかるのだ。 猫のように毛を逆立ててグラハムの腕から逃れるべく暴れるのが目に浮かぶようだ。 それはそれで可愛くて楽しくて自分は満足するだろうが、刹那が拗ねてしまう。 できれば刹那にも笑ってほしい。それは紛れもない事実だから。 だから、グラハムはこのまま本当に眠ってしまおうかと思ったのだ。その瞬間、 それまで呼吸すら感じさせない静かさで横たわっていた刹那がガバリとシーツを引き 上げた。 「――― !」 その動作で互いの指が触れた。 それだけだ。 けれど、それまで抱き締められるつもりだったことが嘘のように、それだけで。 その指先だけの触れ合いで鼓動がリズムを変えた。 ひたり、と触れた指は動かない。自分から動かすことなどはできそうもない。 意識を集中するあまりに触覚以外の感覚はすべて摩耗してしまったのだと思う どれぐらいそうしていたのかさえわからなかった。 数十秒だったかもしれないし数十分のような気さえして。 指をぎゅっと握られて眩暈がした。 (…ない) 手のひらを握りこまれて息が止まった。 (…り…ない) ぐい、と握られた手を強く握り返し、 引く。 「足りない」 刹那をひき寄せ反動を利用して向い合せになる 睫毛が触りそうなほど息が触れ合うほどの距離、でも0にはなれなかった距離。 そのまま抱きしめることはできなかった。 だから、 「もっと欲しいと言ってもいいかい?」 君から抱きしめて欲しいのだと言ってもいいだろうか。 ::END::
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