「……これ」








差し出された水を飲むと、喉にしみるような気がした。
そう感じただけで潤っているのだろう。一口飲むと、少し呼吸も楽になる。

「大丈夫、か?」

その声の主は仔猫のように伺って、こちらを見てきた。
紅茶色の瞳に吸い込まれそうなほど、まっすぐに。じっと。
その熱を自分から逸らすのは勿体無くて、大丈夫かという問いに軽く頷く以外は彼から視線は外
さなかった。

「俺、初めて…だったから―――無茶したかもしれない」

昨夜の。
戯れのような触れ合いから、深くなるまでの間のこと。
それさえも逸らさずに聞いてくるから、さすがに照れる。どうしていいのか、また自分にも分か
らなかった。
どうして、あのようなことになったか分からない。
ただ、本当にあの時間は熱すぎた。それだけは分かる。体験したから。
熱い、波のように迫ってきて。過ぎていったかと思ったら、もう首の下まで彼に溺れている。
それはきっと、今も同じだ。
シーツから抜け出した仔猫が、傍にいないことが少しだけ残念に思える。

尻尾をゆっくり絡めるように触る手のひら。唇をそっと嘗められても、嫌ではなかった。
嫌ではなかったから、波にとられて―――溺れた。

「大丈夫。心配するな」
「心配はする―――…だって痛そうに、してた」

ベッドに上がらずに、そのまま床に座り込んで腕だけこちらに伸ばしてくる黒猫。
あるはずのない耳が見えた気がして、笑ってその頭を撫ぜた。
痛みがないというと嘘になるが、なかったといっても真実にはなるかもしれない。だって。

「だから、大丈夫。忘れるぐらい君に溺れていたんだ」

あのとき、確かに自分は幸せだった。
だったら、それでいいと思う。痛みなど、きっと幸福の前ではすぐに忘れてしまうものだ。
忘れてもいいものもあると思う。幸せになってもいいときもある。

「―――…それ、反則だ」
「何故?」

間違った言葉はない。今、自分がそう思ったから伝えた。嘘はない。
言われた言葉が分からないままでいると、子猫はやっとベッドに戻ってくる。そうして、にゃあ
と一声鳴いた。

「…俺も水、欲しい」

指が、唇に当てられて。その指が今度は彼のところに戻る。

「―――ぬるくなるぞ」

可愛い声に、うまいおねだり。







「いい…きっと、すごく甘いから」









また、波が見えた。




















::END::


そまさんへ!




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